25年ほどに前に　中国南部少数民族地域の貴州省で入手した古い刺繍小布です。少数民族ミャオが住む地域に比較的近い地域にトン族も居住します。現在もトンの人々は、刺繍や艶のある黒い布地の服を着用します。 細かな刺繍細工と、多分、自然染料の風合いの本品は、使い込まれ薄くなった黒い木綿地に施され、裏には艶のある黒い帯布片が、縁や4隅などに縫い付け補強され、大切に使用されてきました。 　横の上下縁には、黒い小点で連続する三角（山か）があり、細長の菱形（3枚葉か）と谷部に白帯付き菱形を描きます。縦の左右縁には、黒い小点で波線（川の流れか）を描き、谷部に菱形の花か樹木を描きます(5-6枚め）。 　その内側の細い左右の帯では、すんだ肌色と淡いピンクの細かな刺繍が施され（裏側に刺繍跡）、肌色横線の間に、ピンクの三角と赤い実？（外側から見るとJ字）が刺繍され、上下の帯には平らな波紋が見られます。　 4隅の正方形は、下側両端ではピンクの長方形の中に、正方形と4つの1カ所凹んだ正方形が重なり、卍か中国の吉兆モチーフを示します。上側両隅には、4方に広がる、多分、花弁と花芯、その間に十字形愕モチーフが2色で刺繍されています。 主刺繍の中央円盤は、黒い木綿に直接刺繍され、最も外側に肌色の細い糸で多数の放射紋が描かれ、その内側の円環には、大きな渦巻が赤い点（実？）をもつ小さな渦巻に続き、この基本モチーフが上下に入り込み、2つの円環は太陽を示すようにも見えます。布の裏側に残る、込み入った曲線とそれぞれ若干異なる大きさから、手刺繍よると思われます。 　内側の円盤は、厚めの布に2色の手刺繍で浮き上がり、外側にスティッチ編みなどで細い円環2つ、その内側には雲モチーフ状の線が続き、線の内側を肌色とピンクの糸で埋めます。さらに内側には広がる渦巻紋は、回転する2色の放射紋が順に大きくなり、中央では渦巻と伸びた長い足（巻いた蕨のような）が続き、中核には金色に輝く肌色の渦巻が密に刺繍されています。 　これら精緻な刺繍細工には、美しさだけでなく、刺繍が本来の機能である魔除けや災難除けの願いが込められています。本品は、中国少数民族が育み、しかし、徐々に失われていく、精緻で優れた刺繍技法と文化的伝統を語る、具体的で貴重な古刺繍布片です。 　サイズ　横　約37㌢　縦36㌢　円紋径　約15.5㌢